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サイエンスカフェ

第20回 岡大サイエンスカフェ開催報告

開催日時 平成22年10月26日(火) 18:00~19:30
開催場所 岡山市デジタルミュージアム 4階 講義室
テーマ 宇宙で育て!植物たち 
─宇宙での生活をめざして─
講 師 岡山大学 資源植物科学研究所 
准教授 杉本 学(専門:細胞分子生化学)

開催概要

入口の様子

 最初に、曽良副学長から「今回は『街に出てみよう』ということでこの会場になりました。岡山大学は岡山市内の津島と鹿田キャンパス、鳥取の三朝に研究所がありますが、本日講師の杉本先生が所属する倉敷の中心地にある研究所は、もともと大原氏によって設立されたもので、この4月から名称も変わり、併せて全国の共同利用施設として、植物研究の拠点です。本日の話は新聞等でも取り上げられてご存知かも知れませんが、楽しんで聞いて下さい。」と挨拶がありました。

 以下は杉本先生のお話です。
本日のテーマは宇宙ですので童心に返ってリラックスして聞いて下さい、との挨拶の後、「宇宙ビール」のことを知っているか挙手して貰い、結構多いとの印象を持たれました。  
 2008年の記者発表後、全国の新聞、全国放送でも取り上げられたし、アメリカ、ドイツ、イギリス等の海外メディアからも取材を受け、インパクトの大きさを実感したが、ブログ等の情報伝達の過程で「宇宙でビールを作った」と話が拡がり、海外の共同研究者に情報修正しなければならなかった、との裏話がありました。
展示
 本日の話は、宇宙ビールがどんなものか、何の目的で作ったかを知って貰うために、以下の3点を中心に話を進めるとの予告がありました。
講演の様子
・宇宙での植物の役割
・宇宙での植物栽培
・宇宙開発の技術と利用
 1961年にソ連のガガーリンが人類初めて人口衛星で宇宙に出て、その後1981年にスペースシャトルが開発され繰り返し宇宙に出られるようになっているが、どうして宇宙を目指すのでしょうか。それは次のような人類にとって大きなメリットがあるからです。
・高品質な物質を作る:例えば無重力では均一な合金が作られる
・安全で高いエネルギーをもつ資源が得られる
・貴重な金属、レアアース等の貴重な元素の宝庫  
この実現には宇宙での長期間の滞在が必要であり、植物は宇宙での食料自給や物質循環を行ったり心理的効果をもたらすものとして重要な役割を担う。宇宙環境では、微小重力、急激な温度変化、高い真空度、熱の伝わり方の特殊性、強い放射線等の過酷な条件が揃っており、この宇宙空間で食料としての植物が得られるだろうか、が大きな課題である。  
 地球では、生産者(植物)/消費者(動物)/分解者(微生物)の物質循環が行われており、また、草食動物-肉食動物-排泄物-微生物による分解-植物、の食物連鎖もあり、地球を直径1m球に例えると、僅か1mm厚の表面対流圏での空間のなかでの生物の営みであり、それを模したドーム状の閉鎖空間での実験がいくつか試みられている。
 ロシアでは「マース500」と称して(火星までの往復日数が500日)この6月から6人が植物栽培を含め、閉鎖空間での生活を始めた。さらに遡れば1960年代からソ連、アメリカ、日本、欧州でも実験を行い、なかでも、1991年からのアメリカでのバイオスフェア2は、岡山ドーム2ケ分の中に3800種の植物、250種の小動物と一緒に8人が2年サイクルで100年間の計画を始めたが、微生物の酸素消費とコンクリートが原因となる酸素不足で2年間で計画が中断された。
会場のみなさん
このことは、地球上にあるいくつもの生態系はお互いに影響しあって最終的なバランスを保っているが、それらは生物の種の多様性、個体の多様性に基づくものであり、それらの総合的な結果としての「生物の多様性」による物質循環を模倣することがいかに難しいかと言うことを示している。
 先生はNASAの協力のもと、ロシア科学アカデミーとの共同研究「宇宙環境における植物の適応能力」で、国際宇宙ステーション(ISS:大きさ108m×80m)のロシア実験棟内で、大麦の保存-発芽-栽培-収穫という植物のライフサイクル実現を目指して研究を推進している。
質疑応答
 ここで5ケ月間保存した大麦種子の子孫を焙煎した麦からは、宇宙ビールも作られていますが、未成年者にも提供できる麦茶を休憩時間に試飲していただく、との案内で前半の話が締められました。  
 休憩時間には、皆さん宇宙麦茶を味わいながら、先生にはISSの模型や宇宙ビール、実験棟内で栽培された大麦の苗等の展示品の前での説明や各種質問を受けていただきました。
 再開後、ISSについての紹介のあと、実験植物として大麦を採用した理由として、
1,乾燥に強い、宇宙では貴重である水の消費量が少ない
2,栄養価が高い、小麦に比べ食物繊維7倍、カルシウム3倍、カリウム2倍
を挙げられ、その中で低温処理が不要な品種として、春蒔き型「はるな二条」を採用し、2006年4月、日本で生まれた大麦が打ち上げられ、9月に世界で初めて宇宙空間での発芽に成功した。
 ISS内での成長に関し、植物の持つ光、重力、水分に対する屈性の説明があり、実験でも植物が宇宙で育てられる事が判り、その後持ち帰った種を栽培し、更にはその子、孫、曾孫の代までの調査で、安全性を含め地上での生産物との差異がないことが確認された。  さらにはISS船外での3回目のバイオリスク実験(強い放射線の曝露、大きな寒暖差等)も今年1月に行われ、持ち帰った直後のビデオが流されたが調査結果は後刻のお楽しみとの事でした。
 この他宇宙空間では、スペースの関係から矮性をもった背の低い品種が適正であること、花粉の飛び方が地上と異なるので茎のなかで実をつける品種や、穂が重くて垂れてしまい地上では利用できない品種が、無重力の宇宙では利用できる等、地上での資源開発と宇宙での資源開発が相互に関係しあいパラダイムシフトへの期待が示され、今後生物学のみならず工学、医学、物理学、化学等多くの分野が関係して、人類の宇宙開発に貢献していきたい、との研究姿勢、意気込みでした。
 宇宙での生活をめざして研究をしていると言われても実感がわかないと思われるが、リモコン、ダイヤカット缶、低反発枕等の宇宙開発で生まれた技術が私たちの生活に利用されているという説明がありました。
 今年4月オバマ大統領が「2030年代に火星に人を」の目標を発表し、また2014年には現在のスペースシャトルに代わるロケットの開発が進む中、先生は植物栽培の研究を続け宇宙に行けたら、との夢に併せ高校生の皆さんの20年後への期待も寄せられました。  最後に「明日夕刻ISSを肉眼で観察してみよう」との案内がありましたが、予告どおりハッキリ観察できました。
 以上が先生からのお話で、その後参加者といくつかの質疑応答がありました。

 閉会に先立ち、次回第21回の案内(『仕事とケアの両立』という生き方)が司会者からアナウンスされました。今回は会場を学外の施設としましたが、大勢の皆さんにお運びいただき盛況に終えることができました事、厚くお礼申し上げます。

 社会連携本部 松浦啓克記

会場の皆さん