第16回 岡大サイエンスカフェ開催報告
| 開催日時 | 平成22年3月4日(木) 18:00~19:50 |
| 開催場所 | 岡山大学創立五十周年記念館 2階 |
| テーマ | 地球科学と医学の融合!? ~ アスベストと癌~ |
| 講 師 | 岡山大学地球物質科学研究センター長 中村栄三 教授 |
開催概要
冒頭、曽良副学長から「今朝NHKテレビでこのサイエンスカフェの案内放送がありましたが、今回のテーマである地球科学と医学の融合の『融合』については、岡山大学において、異分野の研究の融合で新しい領域を作り出す事を重要な使命としていることと、テーマにあるアスベストは昨年7月に新聞で大きく取り上げられた内容であることから、大変楽しみにしています。」との挨拶がありました。
以下は中村先生のお話です。
本日前半でお話する地球科学については、宇宙の始まりから現在までの流れを判って貰えれば良いが、との前置きで最初に先生所属の地球物質科学研究センターの紹介がありました。
1939年に中四国の中心としての岡山医大の温泉療養所が作られ、その後岡山大学の放射能泉研究所、温泉研究所等に改組され、現在は地球惑星物質の研究を主に、国内外の研究者に基礎実験分析技術の提供ならびに、共同研究の機会を提供する共同利用研究拠点として機能している。
約45億6千年前に始まった地球の歴史は、その後、多くの隕石の衝突を経てダイナミックな動きのなかで地球中心核、マントル、地殻、大気海洋ができ現在に至る。このような地球の進化を理解するためには、地球表層に存在する岩石を含む物質や隕石が、いつ、どこで、どのようにして出来たかを物理的、化学的にひも解き、読み解く必要があり、その分野の世界トップクラスの研究能力(超高圧実験、分析化学、年代測定)を有するセンターでは、国際共同研究の成果も多く、年間100名以上の研究者が訪れ、そのうち海外からの来訪者は3-4割にもなる、との紹介です。
136億年前のビッグバンから始まった宇宙は核融合、超新星、原子、太陽系形成の流れのなかで、地球を形成する多層構造と元素の周期律表には相関関係があり、地球上に産する岩石や鉱物(地球外から飛来した隕石を含め)から得られる化学的情報を調べると、元素の規則的な振る舞いが認められ、自然は何かのルールで成り立っていることが分かる。これらの、いつ、どこで、どのように物質が形成されたかの解析は、各種放射性元素を用いた年代測定法によるもので、地球46億年の年代のキザミは、人間の100年のキザミと同様、いずれも「現在」の状態は、過去の歴史(時間経過とプロセスの重ね合わせ)の結果である。
この7月に人類史上初めて、小惑星(イトカワ)から惑星探査機(ハヤブサ)が持ち帰る予定のサンプルにも、それに関わる者として多いに期待している。
前半の締めくくりとしてパスツールの言葉「偶然は準備のある者にしか微笑まない」と、後半の話の予告をしていただいた。
休憩のあと、先生の立場では、医学という分野は素人で専門でないので、どこまで理解が得られるか分からないが、との前置きがありました。
2004年に新聞社からのインタビューを受けたが、その後に胸部外科の専門家である岡部医師(宇部医療センター)から、悪性中皮腫と関連すると考えられているアスベストの分析の相談があり、当初は単なる興味からアスベストの化学的特性を調べようとした。この時点ではアスベストが悪性中皮腫を誘発する明確なメカニズムも、更にはなぜ癌が発生するかも明かになっていないと思えた。
これらの因果関係は早くにアメリカで認知され、1970年代にはアスベストが販売中止となっていた。疫学的には悪性中皮腫発症の潜伏期間が20~40年と長いこと、病理学的には、アスベスト小体の鉄触媒反応、活性酸素によるDNAの損傷等が指摘されていた。
その後の詳細研究では、6名の悪性中皮腫患者の摘出肺から分離されたアスベスト小体(アスベスト繊維と含鉄タンパク質からなる)を、地球化学的手法(物質の形成環境と過程から元素の振る舞いを調べる)によって調査したが、結果的には鉄分の多いアスベスト繊維だけが発見され、鉄分の少ないクリソタイルは認められなかった。さらに、喫煙者に鉄に富むタンパク質の塊が多い傾向があった。
アスベスト小体やアスベスト繊維を含まない含鉄タンパク質中の44元素の微量元素分析を地球化学的手法によって解析した結果、重金属の極めて高い濃集、特にラジウムの存在度が海水の数100万倍にも達することが分かった。従って、高濃度のラジウムを含む含鉄タンパク質に塊が肺組織内で放射線(α線)のホットスポットを形成し、DNA損傷/突然変異の原因となって、悪性腫瘍細胞を誘発し、癌を発生させるとする病因メカニズムを提唱した。
自然に発生するその他の臓器の癌のキッカケは、喫煙や食物よりも家系(遺伝的)要因が大きいと思われる、と補足いただいた。
最後に、地球惑星を研究する科学者として、地球の進化プロセスの中での基本的な物質分化の機能が、人の一生の中での各種臓器の変化、病気の発生の流れに対比できるという視点から、物質科学的考察に基づく生体の病理発生機構の解明と治療方法確立という「地球科学と医学の融合」による「生体系物質科学」の創成に向けた研究課題への今後の挑戦を示していただいた。
予定時間を少し超過しましたが、参加者からいくつかの質問(DNAの損傷に関わる質問が多かった)にお答えいただき閉会となりました。
閉会に先立ち、次回第17回の案内がアナウンスされました。
当日は雨天の中、大勢の皆さんにお運びいただき盛況に終えることができました事、厚くお礼申し上げます。
社会連携本部 松浦啓克記

入口案内ボード
曽良副学長の挨拶

中村栄三先生

会場の様子

参加者の皆さん
スクリーン

スクリーン

質問される参加者

質問される参加者

質問に答える中村先生


