第9回 岡大サイエンスカフェ開催報告 

開催日時:平成20年10月24日(金) 18:00〜19:40

開催場所:岡山大学創立五十周年記念館 大、小会議室

テーマ :昆虫の社会を科学する

       ─アリ・ハチ、シロアリの驚異の世界─

講 師 :岡山大学大学院 環境学研究科(農学部)松浦 健二准教授

開催概要:
 最初に曽良副学長から「サイエンスカフェは大学の研究を判り易くお話し、大学の研究を身近に感じていただく機会ですので、大いに楽しんでほしい」との挨拶がありました。挨拶の中でJSTイノベーションブランチ岡山の協賛を受けているとの紹介もありました。

以下は松浦先生のお話です。
 前半部分では生物の世界全般の話、特に本日のテーマであるアリ・ハチ、シロアリ等の社会性昆虫の特徴をお話いただき、後半には松浦先生が開発された擬似卵を応用した画期的なシロアリ駆除方法についてお話いただきました。 

地球上の生物の種類は認識されているもので160万種、そのうち昆虫は100万種といわれているが、実際には昆虫だけでも300万種と予想されており、地球は「虫の惑星」ともいえる。

生物はダーウインの進化論にある自然選択説による進化のメカニズムに従って進化してきたが、遺伝子による遺伝情報、環境の要因による選択等、子孫を残す能力としての適応度や、DNA複製ミスによる突然変異などにより世代を経て進化を繰り返してきた。環境による選択の例として19世紀に英国の工業化が進んだ時に(工業暗化)、周囲の環境変化に対応して白い蛾が減少し黒い蛾が生き残った事実が示された。

 社会生物学(Sociobiology)は、ピューリツア賞を2回受賞したエドワード・ウイルソンらによって確立され、生物社会の進化メカニズムを解明する学問である。人間が表情の変化をも読み解くコミュニケーション能力の進化など、人間の社会進化もこの学問の一つの対象であり、当初米国では神に背く学説として強い反感があり、彼の行動に警護が付けられていた。ウイルソン博士が居るアリの世界的研究拠点であるハーバード大学は、松浦先生の前任地であり現在も頻繁に交流が続いている。

 昆虫には蝶のように「卵―幼虫―さなぎー成虫」と変化する完全変態型と、カメムシ、セミのように「卵―幼虫―成虫」と変化する不完全変態型があり、本日話の対象となるアリ、ハチは前者、シロアリは後者と、両者は異なる分類の社会性昆虫である。両者の違いとして、シロアリは「社会性を持ったゴキブリ」、アリは「飛べないハチ」とも表現できる。

 シロアリは木(セルロース)を食べ、腸内微生物が出す酵素セルラーゼで分解された糖をエネルギーとしている。人間の腸内にもセルラーゼは存在するがその量は少なく、セルロースの5%を消化する能力しかない。

 ハチ、アリの世界では、働くのは全てメスで完全メス社会、オスは交尾のみの役割でドローン(なまけ者)と呼ばれる。また、ハチの毒バリは産卵管から進化したものである。

 ここでホワイトボードを使って遺伝学の情報、適応度についての説明がされました。

ダーウインは自然選択理論によりあらゆる生物の進化を説明したが、唯一社会性昆虫の不妊カーストの進化の説明には苦慮した。これをハミルトンが1964年に血縁選択理論により説明した。ここでは遺伝子を共有する血縁者の繁殖も含めて、自身の遺伝子の後世への伝達能力である包括適応度の概念を取り入れて、なぜワーカーや兵蟻など、自分自身で子を産まないカーストが進化しうるのかを説明した。

 シロアリの世界では、働きアリと繁殖アリには別々のカースト制があり、繁殖アリは基本的には一夫一妻制で2匹が繋がるタンデム行動をとるが、中にはメス同志がタンデム行動をとり単為生殖が可能である。このことは松浦先生が大学院生時に発見したことである。それらの2匹はお互いに体を舐めあって抗菌効果を持つグルーミング行動をとる。

 後半の話は、シロアリの生態を利用して卵に擬態した菌核を巣の中に運び込ませる菌核菌の話題である。女王アリが産卵した卵は、滅菌状態の育児室で働きアリが毎日グルーミングによる世話を続けている。擬似卵をシロアリに卵と認識させる(だます)ためには、大きさ、形、表面状態、フェロモン等の条件が必要であり、卵認識フェロモンの同定と、卵擬態菌核菌の卵擬態メカニズムの説明があった。

シロアリによる被害は日本では年間1千億円といわれているが、これまでの駆除方法では処置が表面的で、木の中に生息して、広範囲に巣が広がっている生態に対する根本対策にならない。社会的昆虫の駆除としては、その社会的行動を逆に利用して、巣の中枢部に殺虫剤を仕込んだ擬似卵駆除剤を運び込ませるという画期的なドラッグデリバリーが効果的であり、現在企業との間で実用化を目指す開発を進めており、3年後には家庭でシロアリ駆除ができる時代が来ると予測している。

シロアリに続く脅威としてアルゼンチンアリの被害が拡がりつつあり、もうすぐ岡山県にも侵入の気配があり、環境省も大きな関心を示しており次なる研究対象としたい。

 ホットな話に熱が入り、途中休憩もなくノンストップで話が続き、予定時間が少しオーバーしました。お話の後参加者からの質問「アルゼンチンではアルゼンチンアリにどのように対処しているのか」に対し、天敵の存在と外来種での繁殖の説明をいただきました。

 閉会に先立ち、次回サイエンスカフェの予定として、文学部倉知克直先生の「絵図を読むたのしみ」の案内が村上本部長からアナウンスされました。併せてこのテーマに関連した池田家文庫の展示行事を中央図書館の北條係長から案内いただきました。

閉会後に、持参いただいた各種シロアリのサンプルを前にして追加の説明、質疑が続き、法律上持参できなかったアルゼンチンアリへの関心が多く示されました。最後にボールペンの筆跡上をなぞって歩き回る、目が見えないイエシロアリの行動に皆さん感嘆し、それがインクの溶媒に含むフェロモンに似たエーテルの一種の仕業との説明をいただきました。

当日は大勢の皆さんにお運びいただき盛況に終えることができましたこと、参加者の皆さん、学内関係者の皆さんに厚くお礼申し上げます。      社会連携本部 松浦啓克記


(以下サイエンスカフェの様子)


入り口の案内ボード



曽良副学長の挨拶



参加者の皆さん



ホワイトボードを使っての説明



先生のお話



シロアリのサンプル



シロアリサンプルに興味しんしんの参加者の皆さん



質問に答える先生




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